| 定年時代 平成14年2月号 「介護指圧のすすめ」
介護には、おむつを取り替えたり、入浴を手伝うというだけでなく、真心のこもった指圧やマッサージで愛情を伝え、生きる意欲をわきたたせる心のケアこそ大切だ。介護指圧の普及に取り組んでいる東京・赤坂の聖真堂治療院院長、上田紀子さん(60)を訪ねた。(貞廣)
介護の中で指圧を活かせば、寝たきり予防や機能回復に役立つ。指圧は肉体的な効果だけでなく、介護される側と手や指を通して心の交流が芽生え、元気づけ、生きる勇気を与えられるという。
上田さん自身、両親が脳梗塞で倒れたとき、指圧の知識・経験が役立った。思い出しても辛いことだが、両親から教えられた人生体験だったのではないか。
八年前、父が七十五歳のときだった。犬の散歩から帰ってきたとき、玄関に立った父の形相は今も忘れられない。顔面が引きつって口が右ほほの位置あたりまでに吊りあがっていた。なにかしやべっていたが言葉になっていない。その様に驚き動転しそうになったが、とりあえず掛かりつけの医師に電話した。あいにく出かけていて留守。それまでどうすればいいのか、パンパンに硬直している肩、首、指など懸命に指圧を続けた。小一時間ほどして、医師から電話が入り状況を説明した。そのときは口の位置もやや戻って硬直もすこし緩んでいた。後に父が語ったことだが、「犬が草薮に入ったのを止めようとしたとき、発作が起きてほうほうの態で帰宅したがよくぞ家まで歩けた」という。一過性脳梗塞で二週間程度の通院で治った。
母は六十八歳のとき、やはり脳梗塞を起こした。脳梗塞といっても症状はさまざまで、母の場合は脳の一部に障害が発生して言葉をまくし立てる攻撃型。早朝から父の枕元に立って過去のことを責めまくる。これには家族も辟易したが、脳神経科の医師に「責めているときが正常で、おとなしくなった状態は異常だといわれ、半信半疑になった。その後、父に向けられていた口攻撃が自分の方にまわってきて、母はしゃべりまくった。それからしばらくして突然止まり、その後数年は言葉を忘れたカナリアのようになった。上田さん達が話す事はわかるが、言葉がでない。入院は三日ほどだった。それ以上の入院をすれぱ寝たきりになる心配があるといわれ、それはさせないようにした。自分でできることはさせた。長い闘病のあと、父は五年後、母は十年後、亡くなった。父も母も昼寝をするように亡くなったが、本人たちにとっては辛い闘病であっただろう。
両親の介護の体験から介護指圧を考え付いた、指圧、マッサージで少しでも病気の進行を抑えることができる。その上、専門家でなくとも身内であれば、「体に触れる手から母の辛さ、淋しさが伝わってきて、母にも私の気持ちが伝わり、ぎくしゃくしたときも自然と会話がやわらぎましたし。そして最後まで寝たきりにさせないようにしたという。
介護する立場の人たちが指圧を学び、指圧の知識を役立てることができれば介護の自信にもつながる。技術的にはつたない指圧でも、家族が懸命にやってくれる、その温かい気持ちが「手」から相手に伝わり、予想以上の効果が期待できる。
上田さんは職業としての指圧でなく"愛の指圧"として介護指圧と呼んでいる。聖真堂では、中高年者の受講者も多い。
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